20世紀の思潮と思考技法 ― AI時代における思考の進化

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思考の方法にも歴史がある

人間は古代から、物事を正しく理解し、合理的に判断し、新しいアイデアを生み出すための方法を探求してきた。論理学や弁証法など、その歴史は長い。しかし、私たちが今日、問題解決、戦略策定、意思決定などに利用している思考技法の多くは、20世紀に体系化され、発展してきたものである。

20世紀は、科学技術と産業社会が急速に発展した時代であると同時に、人間の認識、知識、社会、存在の意味について多様な思想が展開された時代でもあった。論理実証主義、構造主義、現象学、実存主義、プラグマティズム、システム論、批判理論などは、それぞれ異なる角度から人間の思考と世界の理解を問い直してきた。

一方、経営学、心理学、認知科学、オペレーションズ・リサーチ、意思決定科学などの分野では、思考を一定の手順やルールによって支援する実践的な方法が発達した。SWOT分析、モルフォロジカル分析、シナリオ分析、AHP、システム思考などがその例である。

これらの思考技法が特定の哲学思想から直接生まれたわけではない。しかし、それぞれの方法が何を重視し、何を分析の対象とするかを考えると、20世紀の思想的潮流との間に興味深い共通性を見出すことができる。

世界を構造として理解する

20世紀の重要な思想の一つが構造主義である。言語学者フェルディナン・ド・ソシュールの研究を重要な出発点とし、文化人類学者クロード・レヴィ=ストロースらによって発展した構造主義は、個々の要素を独立したものとして理解するのではなく、それらの関係を成立させている体系や規則に注目する。

例えば、言葉の意味は、その言葉だけで決まるのではなく、他の言葉との差異や言語体系の中での位置によって成立する。個々の文化現象についても、その背後にある関係のパターンや構造を探ろうとする。

この発想は、多くの思考技法と共通している。SWOT分析は事業環境を内部・外部、強み・弱み、機会・脅威という観点から整理する。モルフォロジカル分析は問題を構成する要素とその組合せを探索する。システム思考は要素間の因果関係やフィードバックに注目し、構造写像理論は異なる対象の間に共通する関係構造を見出す。

もちろん、これらは哲学的な構造主義と同一ではない。それでも、複雑な対象を要素と関係に分解し、普段は見えにくい構造を明らかにするという点では、共通する知的態度を持っている。

思考を構造化することには、実践的な利点がある。漠然とした認識を明確にし、見落としていた関係を発見し、他者との議論や検証を可能にする。さらに、分析手順を明示できれば、コンピュータによる支援も可能になる。

しかし、構造化には限界もある。どのような構造を用いて対象を理解するかによって、見えるものと見えなくなるものが生じるからである。

合理性と個別性の間で

20世紀の思想には、構造や体系を重視する方向とは異なり、個々の人間の経験、自由、選択、責任を重視する流れもあった。

現象学は、人間が世界をどのように経験し、意味づけているかを問い、実存主義は、個人が自らの生き方を選び、その選択に責任を負う存在であることを重視した。構造主義が個人を超えた体系に注目するのに対して、実存主義は具体的な状況を生きる人間の主体性に重点を置いたと捉えることができる。

このような対比は、経営戦略や意思決定の方法を考えるうえでも示唆的である。

例えば、1970年代に普及したPPM(プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント)の代表的な方法では、市場成長率と相対的市場シェアによって事業を分類し、経営資源の配分を検討する。複数の事業を共通の基準で比較するための有用な方法である。

しかし、企業にはそれぞれ固有の歴史がある。創業者の信条、長年培ってきた技術、社会に果たそうとする使命、従業員の誇りなどは、市場成長率と市場シェアだけでは表現できない。

ある事業が経済合理性の観点から撤退候補に分類されたとしても、その事業が企業の技術的な基盤や存在意義を支えている場合がある。反対に、創業者の理念を守ることが、変化した社会環境への適応を妨げる場合もある。

重要なのは、合理性と理念のどちらかを絶対視することではない。両者の関係を明らかにし、何を優先し、何を犠牲にするのかを自覚したうえで判断することである。

こうした問題に対応する方法も、20世紀のうちに生まれている。ピーター・チェックランドらのソフトシステム方法論(Soft Systems Methodology)は、人々の世界観によって問題の捉え方が異なることに注目した。また、ラルフ・キーニーの価値重視思考(Value-Focused Thinking)は、与えられた選択肢を比較する前に、そもそも何を実現したいのかを明確にし、その価値から新しい選択肢を生み出そうとする。

ここには、思考技法が単なる合理化や最適化の道具にとどまらず、人間の価値観や主体的な選択を支援する方法へ発展してきた歴史が認められる。

21世紀の思潮はどこへ向かうのか

21世紀を代表する思想が何であるかについて、現時点で明確な答えがあるわけではない。しかし、現代社会が直面する問題を考えると、いくつかの方向性が浮かび上がる。

第一に、個別の要素や固定された構造だけでなく、相互依存性、複雑性、変化そのものを理解する必要性が高まっている。企業活動、技術、経済、社会、自然環境は互いに結びついており、一つの要素を変えることが予期しない影響を生む。複雑系科学、ネットワーク科学、関係論的な思想などは、こうした世界を理解するための異なる視点を提供している。

第二に、単一の正解や最適解を求めるだけでなく、複数の価値観や世界観を考慮する必要がある。経済的な効率性だけでなく、環境への影響、社会的な公正、文化的な多様性、個人や組織の主体性など、異なる基準が同時に問われるようになっている。

第三に、未来を予測することから、複数の未来の可能性を探索し、望ましい未来を形成することへと関心が広がっている。シナリオ・プランニングや戦略的フォーサイトは20世紀から発展してきた方法だが、不確実性の高い環境では、既存の予測や計画を定期的に問い直すことが一層重要になる。

これらは21世紀になって突然生まれた思想ではない。むしろ、20世紀に展開された多様な問題意識が、技術的・社会的な変化の中で新しい重要性を持ち始めていると考えるべきだろう。

そして、この変化を加速させる可能性があるのが人工知能である。

AIは思考技法をどう変えるのか

従来の思考技法は、基本的に人間が一定の手順に従って作業することを前提としていた。コンピュータは主として計算、情報整理、可視化などを支援してきた。

しかし、大規模言語モデル(LLM)の登場によって、この関係は変わりつつある。AIは文章を解釈し、論点を抽出し、仮説や反論を生成し、異なる分野の知識を結びつけることができる。これまで人間による理解や判断を必要としていた思考技法の一部も、AIによる支援の対象となっている。

ここで考えるべきことは、従来の思考技法をどれだけ自動化できるかという問題だけではない。

例えばSWOT分析をAIに実行させれば、短時間で整った分析結果を得られるだろう。しかし、分析に使った分類は適切なのか。企業が目指している目的は妥当なのか。そもそも、その問題を解決することに意味があるのか。別の問題設定から考えるべきではないのか。

こうした問いを扱えなければ、AIは既存の思考の枠組みを高速に再生産するだけになりかねない。

一方、AIには、異なる観点から問題を捉え直し、暗黙の前提を指摘し、通常の分析では見落としがちな選択肢を提示する可能性がある。既存の枠組みを使った分析と、その枠組み自体への批判的検討を組み合わせることができるのである。

ただし、AIが提示する別の視点や仮説が必ずしも正しいわけではない。AIにも学習データに由来する偏りや推論上の限界があり、人間による検証と判断は欠かせない。

また、分析の結果として何を選択するかは、事実認識だけでは決まらない。そこには価値判断が含まれる。AIが選択肢を広げることと、人間に代わって何を大切にするかを決定することは区別しなければならない。

思考を支援することの意味

20世紀に発展した思考技法の大きな成果は、思考を一定の手順やルールによって支援できることを示した点にある。経験や直感だけに頼るのではなく、対象を分解し、関係を整理し、仮説を検討し、判断の根拠を明らかにする。その成果は、21世紀においても失われるものではない。

しかし、どれほど精緻な分析方法であっても、その方法が前提としている世界観や評価基準を超えることは容易ではない。思考技法を使いこなすためには、技法そのものを批判的に検討し、必要に応じて別の方法に切り替えたり、複数の方法を組み合わせたりする視点が必要である。

ThinkNaviは、さまざまな思考技法をコンピュータとAIによって支援することを目指している。その発展の方向として重要なのは、個々の分析作業を効率化するだけでなく、問題の発見、前提の検討、異なる視点の導入、選択肢の創造、価値判断までを含めた思考過程を支援することだと考えられる。

20世紀の思想が繰り返し問い続けてきた、構造と主体、客観性と主観性、合理性と価値、知識と行為の関係は、AI時代にもなお重要な問題である。

AIによって、私たちは以前よりも多くの情報を処理し、複雑な分析を実行できるようになった。しかし、情報処理能力の向上が、そのまま思考の質の向上を意味するわけではない。

何を知っているかだけでなく、何を知らないのか。何が正しいかだけでなく、何を目指すべきなのか。与えられた問題をどう解決するかだけでなく、そもそも何を問題とするべきなのか。

こうした問いを含めて思考の方法を発展させることが、21世紀の思考技法に求められる課題なのではないだろうか。


参考資料

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