概念調査(Concept Exploration)は、既知の対象について情報を収集するだけでなく、まだ十分に認識されていない概念や、従来の分類では見落とされていた可能性を発見するための探索的な思考方法です。新しい技術、事業機会、研究開発テーマ、社会の変化などを捉えるために、既存の名称やカテゴリーにとらわれず、対象の特徴、構造、関係性、パターンに着目します。
通常の調査では、まず調査対象を決め、その対象について必要な情報を収集します。例えば、特定の技術について市場規模、競争環境、特許、研究動向などを調べます。調査範囲が明確であれば、こうした方法は有効です。
しかし、新しい事業機会や研究開発テーマを探索する場合には、そもそも何を調べるべきかが分かっていないことがあります。また、従来の分類に収まらない新しい動きが現れていても、既存のキーワードによる検索では見落としてしまう可能性があります。
概念調査は、このような問題を出発点とします。
例えば、新しく現れつつある複数の技術や事業の動きに、共通する特徴や変化のパターンを発見できるかもしれません。あるいは、自社が持つ技術の機能や構造を抽象化することで、これまで知らなかった産業分野に類似した問題や技術を発見できるかもしれません。
概念調査は、すでに名前を知っているものについて調べるだけでなく、何を探すべきかを発見するための調査です。
ただし、概念調査という名称は、一般に使用される新製品のコンセプトテストや、教育分野での概念理解度調査とは異なる意味で用いています。本稿では、マインドウエア総研が1990年代から提唱してきた「事実調査に対する概念調査」の考え方と、その後の技術的な発展を説明します。
概念調査という考え方の始まり
概念調査の発想は、1980年代の先端技術セミナーの企画や、その後の新製品・新規事業開発に関する仕事の経験から生まれました。
先端技術セミナーの企画では、情報通信、半導体、バイオテクノロジー、材料、エネルギーなど、異なる技術分野から有望なテーマを発見する必要がありました。
しかし、それぞれの分野について専門知識を体系的に習得してからテーマを選定していたのでは、新しい動きに対応できません。
実際には、受講者が強い関心を示すテーマには、技術分野を超えた共通する特徴がありました。例えば、新しい技術的可能性が生まれていること、従来の制約が解消されつつあること、産業構造が変化する可能性があることなどです。
重要だったのは、最初から特定の技術名を知っていることではなく、有望なテーマに共通する特徴を理解し、それに合致する新しい対象を探し出すことでした。
また、継続的に技術や産業の動きを追っていると、それまで別々のものとして認識されていた技術や事象が、新しい共通の概念として捉えられるようになることがあります。
こうした経験から、既知の事実を収集するだけでなく、世の中で生じている変化の中から新しい概念を見いだし、その意味を理解するための調査が必要ではないかと考えるようになりました。
1990年代には、この問題意識を「概念調査」と呼び、1997~1998年には、哲学、社会学、心理学、認知科学などの考え方を参照しながら、その方法について連載記事を執筆しました。
当時は、概念調査を具体的な分析技術として実装する手段が十分にありませんでした。その後、自己組織化マップ(SOM)などの機械学習、自然言語処理、LLMの発展によって、当初は主として人間の思考に依存していた探索を、コンピュータで支援できるようになりました。
「概念」とは何か
概念(Concept)は、単なる単語や名称ではありません。複数の対象や現象に共通する特徴を捉え、それらを一つのまとまりとして理解するための認識上の枠組みです。
伝統的な論理学では、概念について内包(Intension)と外延(Extension)を区別します。
内包は、ある概念に該当するための特徴や条件を表します。外延は、その概念に該当する対象の集合を表します。
例えば、「高温環境で使用できる材料」という概念を考えます。
その内包には、一定の温度で物性を維持できること、必要な強度を保てること、化学的な安定性を持つことなどが含まれるかもしれません。
一方、外延には、これらの条件を満たすさまざまな材料が含まれます。
通常の検索では、材料名や材料カテゴリーなどの既知の名称を指定して調べます。
しかし、求める材料の名称が分からない場合でも、必要な特性を具体的に記述できれば、それに該当する未知の材料候補を探索できる可能性があります。
また、ある概念に含まれる対象の範囲は、知識の増加や技術の進歩によって変化することがあります。
新しい対象が発見されたり、従来の対象間に共通する特徴が認識されたりすることで、概念の外延や内包が見直される場合があります。
概念調査では、このような概念の形成、変化、再編成にも着目します。
新しく現れる概念を発見する
概念調査の一つの方向は、社会や技術の変化の中で、新しい概念が形成される過程を継続的に観察することです。
例えば、製造業では、従来「設備を販売すること」と「設備を保守すること」が、異なる事業活動として扱われてきました。
しかし、設備の遠隔監視、データ分析、予知保全などが普及すると、設備を販売するだけでなく、設備が継続的に稼働すること自体をサービスとして提供する事業構造が考えられるようになります。
この場合、個々の技術やサービスの出現だけでなく、製品、保守、データ、契約、顧客との関係がどのように変化しているかを捉えることが重要です。
新しい名称が登場する前から、異なる企業や技術分野で類似した変化が進んでいる場合もあります。
こうした共通する変化の構造に着目することで、個別のニュースや製品情報を超えた、新しい概念の形成を捉えられる可能性があります。
ただし、新しい名称が出現したからといって、必ずしも新しい概念が生まれたとは限りません。
従来から存在していた技術や事業に新しい名称を付けただけの場合もあります。
逆に、従来と同じ名称が使用されていても、その内容や関係性が大きく変化している場合があります。
そのため、概念調査では、言葉の出現や使用頻度だけでなく、その言葉が指している対象、特徴、関係性、適用範囲などの変化を検討します。
ホライズン・スキャニングとの関係
新しい動きを継続的に観察するという意味では、概念調査はホライズン・スキャニング(Horizon Scanning)と共通する部分があります。
ホライズン・スキャニングは、技術、社会、経済、政策などの変化について、将来重要になる可能性がある兆候を早い段階で発見するための方法です。
まだ小さな動きであっても、将来大きな変化につながる可能性があるものは、弱い兆候(Weak Signals)として注目されます。
例えば、異なる産業分野で新しい技術や事業の取り組みが散発的に登場している場合、それらがより大きな変化の初期段階を示している可能性があります。
概念調査は、こうした兆候を捉えるだけでなく、それらの間にどのような共通性や関係が存在するかを理解しようとします。
個々の事象を観察することと、それらから新しい概念を形成することは、異なる思考作業です。
例えば、複数の企業が似たようなサービスを始めていることを確認するだけでなく、それらが顧客と企業の関係をどのように変えているかを考えます。
ただし、概念調査がホライズン・スキャニングより一般的に優れているという意味ではありません。
ホライズン・スキャニングには、組織的な情報収集、兆候の評価、将来への影響分析などの体系的な方法があります。
概念調査では、それらと共通する情報収集の過程を利用しながら、概念の形成や変化、異なる領域に存在する共通構造の探索に重点を置きます。
事実調査と概念調査の違い
通常の事実調査では、調査対象や調査項目をあらかじめ設定し、その条件に合う情報を収集します。
例えば、ある技術について、関連する論文、特許、製品、企業、市場などを調べます。
この方法は、対象が明確であり、必要な情報を確認するときに有効です。
一方、概念調査では、既存の対象名や分類そのものを固定せず、何を探すべきかを検討するところから始めます。
| 比較項目 | 事実調査 | 概念調査 |
|---|---|---|
| 基本的な問い | 対象について何が分かっているか | 何を対象として捉えるべきか |
| 探索の出発点 | 既知の名称、カテゴリー、調査項目 | 特徴、構造、関係、変化のパターン |
| 主な対象 | 既知の対象に関する情報 | 新しい概念、未知の対象、見落とされた関係 |
| 典型的な活動 | 検索、照合、測定、検証 | 観察、比較、抽象化、分類の見直し、探索 |
| 主な成果 | 事実に関する知識 | 新しい探索対象、概念構造、仮説 |
ただし、事実調査と概念調査は対立する方法ではありません。
概念調査によって新しい可能性を発見した場合、その可能性が本当に成立するかどうかは、事実調査によって確かめる必要があります。
また、事実調査によって得られた情報から、従来とは異なる共通性や関係が見つかり、新しい概念調査が始まることもあります。
両者は、互いに行き来する関係にあります。
まだ名前を知らない対象を探す
概念調査のもう一つの方向は、探索対象の名称や所属分野をあらかじめ知らなくても、その特徴や構造から該当する対象を探すことです。
例えば、ある研究開発上の課題について、従来の技術では「必要な物質をあらかじめ特定の場所に蓄えておき、必要になったときに放出する」という方法を利用しているとします。
しかし、この方式では、一度物質を消費してしまうと、再び同じ場所で必要になったときに対応できないという問題があります。
ここで、既知の材料名や製品名から調査を始める代わりに、必要な機能を次のように表現します。
「必要な場所へ、必要な物質を、繰り返し供給できる仕組み」
このように機能や構造を抽象化すると、材料技術だけでなく、生体の物質輸送ネットワーク、流体制御、微小流路、分散供給システムなど、異なる技術分野に類似した仕組みが存在する可能性を探索できます。
ここでは、最初から特定の技術名を知っている必要はありません。
必要な機能や構造を手掛かりとして、該当する技術や現象を探します。
ただし、完全に何も知らない状態から探索できるわけではありません。
解決したい問題、必要な機能、望ましい特徴など、探索を方向づける何らかの知識は必要です。
未知の探索とは、何の手掛かりもなく探すことではなく、既知の名称や対象分野に依存しない手掛かりを利用して探すことです。
構造・関係・パターンに着目する
異なる技術分野の間で類似した対象を探索する場合、単語や表面的な特徴が一致するとは限りません。
例えば、ある技術分野では「補修材の供給」、別の分野では「物質輸送」、さらに別の分野では「資源の再配置」という名称が使われているかもしれません。
名称は異なっていても、「資源を蓄積する場所があり、必要に応じて経路を通して目的の場所に繰り返し供給する」という関係構造に共通性がある可能性があります。
このような探索には、構造写像理論(Structure-Mapping Theory)などの考え方が参考になります。
デドレ・ゲントナー(Dedre Gentner)が1983年に提案した構造写像理論では、類推において、対象の表面的な属性だけでなく、対象間の関係構造の対応が重要であると考えます。
例えば、二つの技術が異なる材料や装置で構成されていても、それぞれの要素の間に共通する機能的な関係が存在する場合があります。
そうした関係を抽象化し、別の領域に適用できるかどうかを検討することで、新しい技術仮説を形成できる可能性があります。
ただし、構造が類似していることは、技術をそのまま転用できることを意味しません。
物理的な条件、性能、スケール、製造方法、コストなどが異なれば、同じ構造を利用できない場合があります。
概念調査における類推は、技術的な成立を証明するものではなく、調査や実験によって検証すべき可能性を発見するための方法です。
概念調査の二つの出発点
概念調査には、大きく分けて二つの出発点があります。
一つは、特定の対象を決めずに、世の中で生じている変化から新しい概念を発見する方法です。
もう一つは、解決したい問題や求める特徴を出発点として、それに合致する未知の対象を探す方法です。
| 新しい概念の発見 | 未知の対象の探索 | |
|---|---|---|
| 出発点 | 広範囲の情報や変化の観察 | 課題、要求、機能、特徴、パターン |
| 主な問い | どのような新しい動きが生まれているか | この特徴に合致するものはどこにあるか |
| 探索方法 | 継続的観察、比較、分類、概念形成 | 抽象化、類推、異分野探索 |
| 主な成果 | 新しい概念、変化の兆候、将来仮説 | 未知の技術、用途、事業機会、研究仮説 |
この二つは、別々の方法でありながら、相互に結びついています。
例えば、継続的な観察によって発見された新しい概念から、その概念の特徴に合致する技術や市場を探索できます。
反対に、特定の特徴から異分野を探索する過程で、これまで認識していなかった共通の動きや構造を発見することもあります。
そのため、概念調査を固定的な手順ではなく、観察、概念形成、探索、検証を繰り返す過程として捉えることができます。
概念調査の基本的なプロセス
概念調査は、探索の目的や出発点によって手順が変わりますが、基本的には次のような流れで整理できます。
- 探索の視点を設定する。 新しく出現する概念を捉えたいのか、特定の特徴に合致する未知の対象を探したいのかを明確にします。
- 広い範囲から情報を収集する。 技術文献、製品、事業活動、社会の変化などについて、既存の分類だけに依存せず情報を収集します。
- 共通性や差異を発見する。 個別の情報を比較し、特徴、関係性、構造、変化のパターンを検討します。
- 概念を形成・抽象化する。 発見した共通性を、特定の製品名や技術分野に限定されない形で表現します。
- 概念を手掛かりに探索する。 抽象化した特徴や構造に該当する事例、技術、用途、問題を探索します。
- 候補を事実によって検証する。 関連する論文、特許、技術資料、実験結果などを調査し、仮説の妥当性を確認します。
- 概念構造を更新する。 新たに得られた情報を反映し、必要に応じて概念の定義や探索の視点を修正します。
この過程では、最初に定義した概念を固定しないことが重要です。
探索を進めるうちに、当初は重要だと考えていなかった特徴が見つかる場合があります。また、異なる概念だと考えていたものに共通性が見つかったり、同じ概念に分類していたものを分ける必要が生じたりすることもあります。
概念調査は、そのような概念の変化を含む反復的な探索です。
KJ法・グラウンデッド・セオリーとの関係
概念調査は、KJ法やグラウンデッド・セオリー・アプローチ(GTA)など、質的な情報から構造や概念を形成する方法と共通する部分があります。
KJ法では、多様な情報をカードなどに記録し、それらの関係を検討しながら、情報のまとまりや全体構造を見いだします。
GTAでは、データに基づいて概念やカテゴリーを形成し、それらの関係を検討しながら理論を構築します。
これらは、あらかじめ与えられた分類項目に情報を当てはめるだけではなく、データから新しい分類や解釈を生み出そうとする点で、概念調査と関係しています。
ただし、概念調査はKJ法やGTAの別名ではありません。
KJ法が情報の構造化を、GTAがデータに基づく理論形成を重視するのに対し、概念調査では、新しい概念や未知の探索対象を発見すること自体を重視します。
既存の方法を組み合わせることもできます。
例えば、異なる情報源から収集した情報をKJ法的に整理し、新しい概念の候補を形成したうえで、その概念を手掛かりに追加の探索を実施することが考えられます。
機械学習による概念構造の可視化
概念調査をコンピュータで支援するための一つの方向が、機械学習による情報の構造化です。
1990年代には、自己組織化マップ(Self-Organizing Map:SOM)を利用して、多数の情報の類似性や分布を可視化する方法が検討されました。
SOMは、多次元データの類似関係を低次元のマップ上に表現するためのニューラルネットワークです。
その後、文書の意味的な特徴を表す埋め込みベクトル(Embeddings)や、Growing Neural Gas(GNG)などを組み合わせることで、大量のテキスト情報を概念的な類似性によって整理できるようになりました。
例えば、多数の技術文献を埋め込みベクトルに変換し、それらの分布をGNGなどによってモデル化することで、類似した技術内容のまとまりや、異なるまとまりの関係を可視化することが考えられます。
継続的に情報を収集し、過去の構造と比較すれば、新しい話題のまとまりが現れたり、既存のまとまりの間に新しい関係が見つかったりする可能性があります。
ただし、マップ上に新しいクラスタが現れたことは、新しい概念が発見されたことを自動的に意味するわけではありません。
情報源の偏り、文書表現の変化、埋め込みモデルの特性、分析条件などによって、クラスタ構造が変化する場合もあります。
また、意味的に近い文書が、必ずしも同じ技術的な原理や因果関係を持つとは限りません。
したがって、機械学習による概念構造の可視化は、探索の手掛かりを提供するものであり、概念の成立や技術的な関係を証明するものではありません。
LLMによる概念探索の発展
LLMの登場によって、概念調査を実施する方法は大きく変化しました。
従来、技術や事業の情報を抽象化し、その特徴から異分野の類似事例を探すためには、分析者自身が広範囲の知識を持っている必要がありました。
現在では、LLMを利用して、文献から技術の特徴や機能、構造、作用原理などを抽出し、それらを異なる表現へ抽象化することができます。
さらに、その抽象化した特徴を探索条件として利用し、異なる分野に存在する技術や事例を探索することも考えられます。
例えば、ある装置の技術資料から「微小な変化を検出する」「低消費電力で継続監視する」「異常が生じた場合に局所的に反応する」といった機能を抽出します。
それぞれの機能について、従来の製品分野とは異なる領域で類似した仕組みが存在するかを検討します。
この場合、探索対象となる技術名をあらかじめ指定する必要はありません。
ただし、LLMが提案した技術や事例が実在するとは限らず、類似性の説明にも誤りが含まれる可能性があります。
そのため、LLMによる探索結果をそのまま事実として採用するのではなく、原著論文、特許、製品情報などによって確認する必要があります。
LLMは、最終的な答えを保証するものではなく、新しい調査の方向や仮説を生成するための手段として利用することが重要です。
クロスドメイン概念探索への発展
概念調査の考え方を、異なる技術分野における研究開発テーマの探索へ具体化した方法が、クロスドメイン概念探索(Cross-Domain Concept Exploration)です。
通常の技術調査では、特定の技術分野を設定し、その分野の論文、特許、製品、企業などを調べます。
しかし、自社の技術が従来とは異なる分野で利用できる可能性を探す場合、その分野の名称や関連キーワードを最初から知っているとは限りません。
クロスドメイン概念探索では、既存技術の名称ではなく、その技術の特徴、構造、機能、作用原理などを出発点とします。
例えば、ある企業が蓄積してきた技術の中から、特定の機能を実現するための共通パターンを抽出し、そのパターンが異なる産業や技術分野でも利用されていないかを探索します。
発見された技術や用途について、既存技術との関係、実現可能性、応用条件などを検討し、新しい研究開発テーマの仮説を形成します。
この方法では、概念調査のうち、特に「既知の名称や専門領域に制限されず、構造やパターンから未知の対象を探す」という部分を具体的な探索手順として実装します。
ただし、クロスドメイン概念探索は概念調査のすべてではありません。
概念調査には、世の中で新しく出現する概念を継続的に観察し、概念の形成や変化を捉えるという、より広い問題意識があります。
クロスドメイン概念探索は、その考え方を研究開発や技術・事業機会の探索へ応用した発展形として位置づけることができます。
ConceptMinerによる技術的な実装
ConceptMinerは、概念調査をコンピュータによって支援するための技術的な取り組みです。
文書などの情報から埋め込みベクトルを取得し、GNGなどの機械学習によって概念的な類似構造をモデル化することで、大量の情報を整理し、探索の全体像を把握できるようにすることを目指しています。
ConceptMiner R&Dでは、こうした概念構造のモデル化と、LLMによるクロスドメイン探索を組み合わせます。
例えば、既存の技術情報からナレッジベースや概念マップを作成し、技術要素を抽出します。それらの要素について、機能や構造、パターンを手掛かりとする探索の問いを生成し、異なる技術分野の候補を調べます。
発見された候補について、文献などの根拠を確認し、再び概念マップによって全体を整理します。
このように、既知の技術情報から出発し、未知の領域へ探索を広げ、その結果を新たな知識として蓄積していく反復的な過程を支援します。
ただし、ConceptMinerは概念調査そのものと同義ではありません。
概念調査は、人間が何を知り、何を知らず、何を探すべきかを考えるための方法論です。
ConceptMinerは、その一部を技術的に実行・支援するためのシステムとして位置づけられます。
概念調査の限界と検証の必要性
概念調査では、既存の分類や専門領域にとらわれない探索を重視しますが、そこにはいくつかの注意点があります。
第一に、探索には必ず何らかの視点や前提が存在します。未知の対象を探索するといっても、完全に前提のない探索を行うことはできません。重要なのは、どのような前提を置いているかを自覚し、必要に応じて変更することです。
第二に、抽象化によって重要な違いが失われる場合があります。異なる技術の共通性を強調しすぎると、実際には成立しない類推を行ってしまう可能性があります。
第三に、探索によって見つかった対象や関係が、実際に新しいものであるとは限りません。分析者にとって未知であっても、すでに広く知られている場合があります。
第四に、LLMや機械学習による分析結果には、情報源やモデルの特性による偏りが含まれます。探索結果の多様性や新規性を過大評価しないよう注意する必要があります。
第五に、有望な仮説を発見することと、その仮説が実現可能であることは異なります。技術的な検証、市場調査、実験などが必要です。
このため、概念調査では、探索によって得られた発想と、実際の根拠によって確認された事実を区別することが重要です。
また、仮説が成立しないことが判明した場合には、その結果を次の探索へ反映する必要があります。
ThinkNaviにおける概念調査
ThinkNaviでは、概念調査を、既存の認識や分類の限界を意識し、新しい概念や可能性を発見するための思考方法として位置づけます。
概念調査は、特定の分析手順だけで完結するものではありません。
新しい概念を形成するためには、KJ法や質的分析などの考え方が参考になります。また、構造や関係性を検討するためには、システム思考、構造写像、アナロジーなどが役立ちます。
将来の変化を検討する場合には、ホライズン・スキャニングやシナリオ分析と組み合わせることができます。
さらに、新しい事業機会や研究開発テーマの仮説が得られた後には、SWOT・TOWS、モルフォロジカル分析、多基準意思決定分析などによって、それらを整理・比較・評価することができます。
ThinkNaviが提供を目指すさまざまな思考技法は、それぞれ異なる役割を持っています。
その中で概念調査は、分析対象や問いそのものを発見し、見直すための方法として位置づけられます。
AIの発展によって、大量の情報を検索・要約・分類することは容易になりました。しかし、既知の問いに正確に答えられることと、まだ考えられていない問いを発見できることは同じではありません。
どれほど多くの情報を収集しても、最初に設定した分類や調査範囲に閉じこもっていては、重要な可能性を見落としてしまうかもしれません。
概念調査の意義は、既知の事実をより多く集めることだけでなく、何を事実として調べるべきか、どのような対象を探索するべきかという認識の枠組みを更新することにあります。
新しい概念が現れる兆候を捉えることも、構造やパターンから未知の対象を発見することも、そのための異なるアプローチです。
LLMと機械学習は、こうした探索を支援する新しい技術的手段です。しかし、最も重要なのは、人間が既存の知識や分類を当然のものとせず、まだ知らないことが存在する可能性に目を向けることです。
英語表記: Concept Exploration
関連する表現: Emerging Concept Monitoring、Cross-Domain Concept Exploration
関連する思考技法:
- ホライズン・スキャニングとは | 変化の兆候から未来の可能性を発見する方法
- KJ法|断片的な情報から意味のある全体像を組み立てる
- グラウンデッド・セオリー、
- 構造写像理論|異なる対象の関係構造を対応づけ、新しい推論を生み出す
- アナロジー(類推)とは ― 異なる領域の知識を結びつけ、新しい発想と仮説を生み出す
- システム思考とは ― 相互依存、フィードバック、時間変化から問題を理解する
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- シナリオ分析とは | 複数の未来を想定し、不確実性に強い戦略を考える方法
- クロスドメイン概念探索
参考文献・資料
- マインドウエア総研「概念調査とは」
- Dedre Gentner, “Structure-Mapping: A Theoretical Framework for Analogy,” Cognitive Science, Vol. 7, No. 2, pp. 155–170, 1983. 論文
- Barney G. Glaser and Anselm L. Strauss, The Discovery of Grounded Theory: Strategies for Qualitative Research, Aldine, 1967.
- 川喜田二郎『発想法 — 創造性開発のために』中央公論社、1967年。
- Teuvo Kohonen, Self-Organizing Maps, Springer, 1995.
- OECD — Strategic Foresight
- OECD — Tools for Agility: Actionable Strategic Intelligence and Policy Experimentation
- ConceptMiner R&D — Cross-Domain R&D Concept Exploration