KJ法|断片的な情報から意味のある全体像を組み立てる

KJ法は、川喜田二郎がフィールドワークで得た雑多な情報を整理し、そこから問題の構造や新しい着想を見いだすために考案した方法です。1967年刊行の『発想法』などによって広まりました。会議で出された意見を付箋で分類する技法として紹介されることもありますが、本来はあらかじめ決めた分類項目に情報を振り分けるのではなく、個々の記述に向き合いながら、そのまとまりや関係を発見しようとするところに特徴があります。

狭義のKJ法は、①ラベルづくり、②グループ編成、③図解化(A型図解)、④叙述化(B型文章化など)の四段階で説明できます。川喜田は、情報を現場で集める活動や、これらの作業を繰り返す活動も含めて、より広いKJ法の体系を構想しました。

1. ラベルづくり ― 情報を一枚ずつ記述する

まず対象となる問題を定め、現場観察、インタビュー、自由な意見交換、資料調査などから情報を集めます。得られた内容を、一枚につき一つの意味のある記述としてカードや付箋に書きます。たとえば「使いにくい」のような抽象的な一語ではなく、「入力した内容を確認するため、別画面へ何度も移動している」のように、状況や行動が伝わる短文にすると、後から解釈しやすくなります。必要に応じて発言者、観察日時、出典も別途残します。

この段階で「人的要因」「システム要因」などのカテゴリーを設定し、カードを割り当てるのは避けます。最初から説明の枠組みを決めてしまうと、その枠組みでは捉えられない事実を見落としやすくなるためです。

2. グループ編成 ― ラベルを集め、表札をつくる

カードをすべて広げ、何度も読みます。内容が近いと感じられる二、三枚を小さなまとまりにし、その組合せが何を意味しているかを検討します。このとき重要なのは、既存の分類名で片づけず、集まったカード全体の意味を短い文で表す「表札」をつくることです。

例えば、次の三枚のラベルがあったとします。

  • 作業手順が人によって違う
  • 引継ぎ書に例外処理が載っていない
  • 熟練者しか判断できない案件がある

これらを集め、「例外的な業務判断が個人の経験に依存している」という表札をつけることができます。「教育不足」と命名してしまうより、元の記述が示している状況を保ちやすくなります。

できた小グループの表札を新しいラベルとして扱い、必要に応じて中グループ、大グループへと統合します。どのカードとも結びつかないものを無理に押し込む必要はありません。孤立したカードに、既存の見方では説明できない重要な情報が含まれている場合もあります。

3. A型図解化 ― まとまりの関係を配置する

グループや表札を大きな紙の上に置き、相互の関係が見えるように配置します。近いものを近くに置くほか、原因と結果、背景と現象、対立、循環などの関係が読み取れる場合には、線や矢印、囲み、短い説明を加えます。グループを囲う作業は「島どり」と呼ばれます。

例えば、「例外的な業務判断が個人の経験に依存している」というグループと、「新しいシステムは定型業務にしか対応していない」というグループがつながると、単純な「現場の変革への抵抗」とは異なる問題の構図が浮かび上がるかもしれません。ただし、図に矢印を描いただけで因果関係が実証されたことにはなりません。配置や線は、検討すべき関係を表す仮説でもあります。

4. B型叙述化 ― 図から文章や説明を組み立てる

図解ができたら、そこで終わりにせず、全体から読み取れることを文章や口頭発表にまとめます。どのような記述が集まり、何が関連し、どこに対立や未解決の問題があり、どのような新しい問いが生まれたかを順序立てて説明します。これがB型叙述化です。

たとえば、上記の例なら「業務改革が進まない理由は担当者の意識だけではなく、例外判断に必要な知識が新システムに取り込まれていないことにあるのではないか」という仮説につながります。次には、例外業務を詳しく調査したり、実際の処理記録で確かめたりすることが必要です。KJ法で仮説を得ることと、仮説を検証することは別の活動です。

実施上の注意 ― 分類表を完成させることが目的ではない

KJ法の意義は、カードをきれいにまとめたり、参加者全員が納得する図を描いたりすること自体にはありません。既存の理論や分類に素材を安易に当てはめず、対象から何かを学び取ろうとする姿勢にあります。これはグラウンデッド・セオリー・アプローチ(GTA)の出発点とも通じる考え方です。ただし、両者は歴史的背景や目的が異なる独立した方法です。

また、どのラベルを近いと感じ、どんな表札をつけるかには、参加者の経験や関心が反映されます。したがって、KJ法を実施すれば唯一の客観的な分類構造が得られるわけではありません。少数意見や例外を残し、元の記述と解釈を区別し、異なる見方があり得ることを認める必要があります。集団での合意形成にも役立ちますが、合意そのものは結論の正しさを保証しません。

AI時代のKJ法

LLMを使えば、大量の文章からラベル候補を抽出したり、類似する記述の候補を提示したり、表札の案を複数生成したりできます。しかし、AIが先に一般的なカテゴリーを決め、そこに情報を分類するだけなら、KJ法の本来の狙いを損なう可能性があります。

AIを活用する場合も、元の記述を保存し、ラベルと出典の対応を追跡できるようにしたうえで、人間がグループや表札を検討することが重要です。AIに期待できるのは手作業の高速化だけではありません。見落としていた組合せや、現在の分類では説明しきれないラベルを発見する補助として使うことも考えられます。ただし、その効果は検証が必要です。

KJ法は、どんな問題にも正解を与える万能手法ではありません。それでも、整理する前に観察し、分類する前に意味を考え、結論を出す前に素材へ戻るという基本姿勢は、定性的な情報分析を行ううえで今も参考になります。

参考文献・資料

職業能力開発総合大学校「能力開発データベース ― KJ法」

川喜田二郎『発想法』中央公論社、1967年。

川喜田二郎『続・発想法』中央公論社、1970年。

川喜田研究所「KJ法とは」

川喜田二郎「KJ法と啓発的地誌への夢」『人文地理』25巻5号、1973年

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